DeFi(分散型金融)の世界では、暗号資産を分散型取引所(DEX)の流動性プールに預けることで報酬を得る「流動性提供(Liquidity Providing)」が広く行われています。年利数十%〜数百%といった高い利回りが提示されることもあり、多くの投資家が参加しています。
しかし、流動性提供には見落とされがちな重要なリスクが存在します。それがインパーマネントロス(Impermanent Loss / 変動損失)です。これは、流動性プールに預けた資産の価格が変動することによって発生する「機会損失」であり、単純に資産を保有していた場合と比較して損失が生じる現象です。
本記事では、インパーマネントロスの仕組みを基礎から解説し、実際にどの程度の損失が発生するのか、そしてどのように対策できるのかを詳しくお伝えします。
インパーマネントロスが発生する仕組み
インパーマネントロスを理解するためには、まずAMM(自動マーケットメーカー)の仕組みを知る必要があります。UniswapやSushiSwapなどの主要なDEXは、AMM方式を採用しています。
AMM型のDEXでは、流動性プール内の2種類のトークンの積が常に一定になるよう設計されています。最も一般的な計算式は「x × y = k」というものです。ここでxとyはプール内の各トークンの数量、kは定数です。
たとえば、ETH/USDCのプールに流動性を提供する場合を考えましょう。あなたが1 ETH(=2,000 USDC相当)と2,000 USDCをプールに預けたとします。この時点での合計価値は4,000 USDC相当です。
ここでETHの価格が2倍の4,000 USDCに上昇したとします。AMMの仕組みにより、プール内のETHの量は減少し、USDCの量は増加します。アービトラージャー(裁定取引者)がプール内の価格と市場価格の差を利用して取引を行うためです。
計算すると、あなたのプール内のシェアは約0.707 ETHと2,828 USDCになります。合計価値は約5,657 USDCです。一方、もし流動性を提供せずに単純に1 ETHと2,000 USDCを保有していた場合、合計価値は6,000 USDCになります。
この差額である約343 USDC(約5.7%)がインパーマネントロスです。流動性を提供していたことで、単純保有と比べて損をしているのです。
インパーマネントロスの大きさ — 価格変動と損失の関係
インパーマネントロスの大きさは、預け入れ時点からの価格変動率によって決まります。片方のトークンの価格がもう片方に対してどれだけ変動したかが重要です。
一般的な50:50の流動性プールにおける価格変動とインパーマネントロスの関係は以下の通りです。
価格が1.25倍に変動: 約0.6%のインパーマネントロス
価格が1.5倍に変動: 約2.0%のインパーマネントロス
価格が2倍に変動: 約5.7%のインパーマネントロス
価格が3倍に変動: 約13.4%のインパーマネントロス
価格が5倍に変動: 約25.5%のインパーマネントロス
注目すべきは、この損失は価格が上昇しても下落しても同様に発生するという点です。重要なのは変動の「幅」であり、方向は関係ありません。また、価格変動が大きくなるほど、損失は加速度的に増大します。
「インパーマネント(一時的)」と呼ばれる理由は、価格が元に戻れば損失も解消されるためです。しかし実際には、価格がちょうど元に戻ることは稀であり、多くの場合この損失は「パーマネント(恒久的)」になります。
インパーマネントロスと取引手数料の関係
流動性提供者はインパーマネントロスのリスクを負う代わりに、プールで行われる取引の手数料収入を得ることができます。この手数料収入がインパーマネントロスを上回れば、流動性提供は利益を生む活動になります。
たとえばUniswap V2では、各取引に対して0.3%の手数料が発生し、これが流動性提供者に分配されます。取引量が多いプールほど手数料収入も大きくなるため、インパーマネントロスを補填しやすくなります。
加えて、多くのDeFiプロトコルでは流動性マイニング報酬として独自トークンを追加で配布しています。これらの報酬を含めた「実質利回り」がプラスになるかどうかが、流動性提供の判断基準となります。
ただし注意が必要なのは、流動性マイニング報酬として配布されるトークン自体の価値が下落する可能性があることです。高いAPY(年利)に惹かれて参入しても、報酬トークンの価格下落とインパーマネントロスのダブルパンチを受けるケースも少なくありません。
インパーマネントロスを軽減する方法
インパーマネントロスを完全に回避することはできませんが、軽減するためのいくつかの戦略があります。
1. ステーブルコイン同士のペアを選ぶ
USDC/USDTやDAI/USDCなど、ステーブルコイン同士のペアでは価格変動がほとんど発生しないため、インパーマネントロスは極めて小さくなります。利回りは低めですが、低リスクで安定した手数料収入を得たい場合に適しています。
2. 相関性の高いペアを選ぶ
stETH/ETHやWBTC/renBTCなど、同じ原資産に連動するトークン同士のペアも、価格変動の差が小さいためインパーマネントロスが軽減されます。
3. Concentrated Liquidity(集中流動性)を活用する
Uniswap V3で導入された集中流動性機能では、特定の価格範囲にのみ流動性を提供できます。狭い範囲に集中させることで手数料収入の効率を大幅に高められる反面、価格がその範囲を外れるとインパーマネントロスが急激に増大するリスクもあります。適切な範囲設定が重要です。
4. IL保護機能を持つプロトコルを利用する
一部のDeFiプロトコルでは、インパーマネントロスに対する保護機能を提供しています。たとえば、一定期間以上流動性を提供し続けた場合にインパーマネントロスを補填する仕組みを設けているプロジェクトもあります。
5. ポジションの定期的な見直し
流動性を提供したまま放置するのではなく、定期的にポジションの状況を確認しましょう。インパーマネントロスが手数料収入を上回りそうな状況であれば、早めに流動性を引き出す判断も重要です。
まとめ
インパーマネントロス(変動損失)は、DeFiで流動性を提供する際に避けて通れないリスクです。流動性プールに預けた2種類のトークンの価格比率が変化することで、単純保有と比べた機会損失が発生します。
その大きさは価格変動の幅に比例して増大し、暗号資産のようにボラティリティの高い市場では無視できない金額になることがあります。一方で、取引手数料収入や流動性マイニング報酬によってインパーマネントロスを上回る利益を得られる場合もあります。
流動性提供を検討する際は、表示されているAPYだけに注目するのではなく、インパーマネントロスを考慮した「実質的な利回り」を見積もることが重要です。ステーブルコインペアの活用や相関性の高いペアの選択など、リスクを軽減する戦略を理解したうえで参加しましょう。DeFiの高い利回りの裏には、必ず相応のリスクが存在することを忘れてはいけません。