zkSync(ジーケーシンク)とは — ZK-RollupベースのイーサリアムL2

イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決するレイヤー2(L2)技術の中で、最も将来性が高いとされるのがZK-Rollup(ゼロ知識証明ロールアップ)です。その代表格として知られるのが「zkSync(ジーケーシンク)」です。

zkSyncは、Matter Labs(マターラボ)によって開発されたイーサリアムL2ネットワークで、ゼロ知識証明という暗号技術を活用してトランザクションの正当性を数学的に証明します。これにより、Optimistic Rollupよりも高いセキュリティと迅速なファイナリティ(取引確定)を実現しています。

本記事では、zkSyncの基本的な仕組み、技術的な特徴、エコシステムの現状、そして今後の展望について詳しく解説していきます。

zkSyncの基本概要とZK-Rollupの仕組み

zkSync(ジーケーシンク)は、Matter Labsが2020年から開発を進めてきたイーサリアムのレイヤー2ソリューションです。現在の主要バージョンであるzkSync Eraは2023年3月にメインネットがローンチされ、EVM互換のZK-Rollupチェーンとして稼働しています。

ZK-Rollup(Zero-Knowledge Rollup)とは、ゼロ知識証明という暗号技術を用いてトランザクションの正当性を証明するスケーリング手法です。具体的には、以下のような流れで動作します。

まず、複数のトランザクションがオフチェーン(L2上)でまとめて処理されます。次に、それらのトランザクションが正しく処理されたことを示す「Validity Proof(有効性証明)」が生成されます。この証明はゼロ知識証明の一種であり、トランザクションの詳細を明かさずに、その正当性だけを数学的に証明できるという特性を持っています。

最後に、この証明がイーサリアムのメインネット(L1)に提出され、検証されます。証明が正しければ、対応するすべてのトランザクションが一括で確定します。

Optimistic Rollupとの最大の違いは、チャレンジ期間(異議申し立て期間)が不要である点です。Optimistic Rollupでは、L2からL1への資産引き出しに通常7日間のチャレンジ期間が必要ですが、ZK-Rollupでは証明の検証が完了した時点でトランザクションが確定するため、理論的にはより迅速な引き出しが可能です。

zkSync Eraの技術的特徴

zkSync Eraは、ZK-Rollup系L2の中でも特にいくつかの先進的な技術を採用しています。

ネイティブアカウントアブストラクション(AA):zkSync Eraは、プロトコルレベルでアカウントアブストラクションを実装しています。これにより、スマートコントラクトウォレットがファーストクラスの市民として扱われ、ガス代の代理支払い(ペイマスター)、複数署名による取引承認、ソーシャルリカバリーなど、柔軟なアカウント管理が可能になります。イーサリアムのメインネットではERC-4337として後付けで実装されている機能が、zkSync Eraではネイティブに組み込まれています。

LLVM互換コンパイラ:zkSync Eraは独自のコンパイラ「zksolc」および「zkvyper」を使用しています。SolidityやVyperで書かれたスマートコントラクトを、zkSync EraのZK対応仮想マシン向けにコンパイルします。EVM完全互換ではなく「EVM互換」であるため、一部のオペコードの動作に差異がありますが、多くの既存コントラクトは少ない修正で移植が可能です。

データ可用性の柔軟性:zkSync Eraでは、トランザクションデータの保存先を選択できる仕組みが導入されつつあります。すべてのデータをL1に保存する「Rollup」モードに加え、データをオフチェーンに保存する「Validium」モードも選択可能にすることで、コストとセキュリティのトレードオフをアプリケーションごとに最適化できます。

Hyperchains構想:zkSync Eraは将来的に「Hyperchains(ハイパーチェーン)」というマルチチェーンエコシステムを形成することを目指しています。これは、zkSync Eraの技術スタックを用いて複数のL2/L3チェーンを構築し、ZK証明によって相互に接続するという壮大なビジョンです。

エコシステムとZKトークン

zkSync Eraのエコシステムは、メインネットローンチ以降着実に成長を続けています。DeFi、NFT、インフラストラクチャなど、さまざまな分野でプロジェクトが展開されています。

DeFi分野では、SyncSwap(シンクスワップ)がzkSync Eraを代表するDEXとして多くのユーザーに利用されています。また、Mute.io(ミュート)、SpaceFi(スペースファイ)などの独自DEXに加え、1inch、Curve Financeといったマルチチェーン展開のプロトコルもzkSync Eraに対応しています。レンディング分野ではReactorFusion(リアクターフュージョン)やZeroLend(ゼロレンド)が活発に稼働しています。

2024年6月にはZKトークンのエアドロップが実施されました。zkSync Eraのアクティブユーザーに対してトークンが配布され、大きな話題を呼びました。ZKトークンはガバナンストークンとしてzkSyncの将来の方向性を決定するための投票に使用されるほか、将来的にはネットワークのセキュリティに関わる役割も期待されています。

ただし、ZKトークンのエアドロップについては、「シビル(複数アカウント利用者)対策が不十分だった」「配分基準が不透明だった」といった批判も寄せられました。これはzkSyncに限らず、エアドロップ文化全体が直面している課題でもあります。

TVL(預かり資産総額)に関しては、エアドロップ前後で大きな変動が見られましたが、コアとなるDeFiプロトコルの利用は継続しており、エコシステムの基盤は維持されています。

Optimistic RollupとZK-Rollupの比較

zkSyncを理解する上で、Optimistic Rollup(Arbitrum、Optimism、Baseなど)との比較は重要です。

セキュリティモデル:Optimistic Rollupは「楽観的」に取引を承認し、不正があった場合に事後的に異議を申し立てる仕組みです。一方、ZK-Rollupは取引の正当性を数学的に事前証明するため、理論的にはより強固なセキュリティを提供します。

ファイナリティ:Optimistic Rollupのチャレンジ期間は通常7日間ですが、ZK-Rollupでは証明の生成・検証が完了次第トランザクションが確定します。ただし、ZK証明の生成にはコンピューティングリソースが必要であり、実際のファイナリティ時間はシステムの処理能力に依存します。

EVM互換性:Optimistic Rollupは比較的容易にEVM完全互換を実現できますが、ZK-Rollupでは一部のEVM操作をZK証明に変換する際の技術的な制約があり、完全な互換性の実現はより困難です。zkSync Eraはこの課題に対してカスタムコンパイラを用いることで対応しています。

コスト:ZK証明の生成には計算コストがかかりますが、証明データ自体はコンパクトであるため、L1への投稿コストは低く抑えられます。トランザクション量が増えるほど、ZK-Rollupのコスト効率は向上する傾向にあります。

まとめ

zkSync(ジーケーシンク)は、ZK-Rollup技術を基盤としたイーサリアムL2チェーンであり、ゼロ知識証明によるセキュリティの高さとネイティブアカウントアブストラクションなどの先進的な機能を特徴としています。

2023年のメインネットローンチ以降、DeFiを中心にエコシステムが拡大し、2024年にはZKトークンのエアドロップも実施されました。Hyperchains構想による将来的なマルチチェーンエコシステムの形成も期待されています。

ZK-Rollupは技術的な成熟にはまだ時間がかかる部分もありますが、その数学的なセキュリティ保証と高いスケーラビリティのポテンシャルは、イーサリアムの未来を形作る重要な技術です。zkSyncがその先頭を走るプロジェクトとして今後どのような進化を遂げるのか、注目し続ける価値があるでしょう。