イーサリアムがProof of Stake(PoS)へ移行して以来、ETHのステーキングはネットワークの安全性を支える重要な仕組みとなっています。しかし、従来のステーキングには「一度ロックした資産を自由に動かせない」という大きな制約がありました。
この課題を解決するのが「リキッドステーキング」です。ステーキングに参加しながら、その資産を代表するトークンを受け取り、DeFiなどで活用できる画期的な仕組みとして、急速に普及が進んでいます。
この記事では、リキッドステーキングの基本的な仕組みから、代表的なプロトコルであるLidoやRocket Pool、そしてstETHの活用方法まで、初心者にもわかりやすく解説します。
リキッドステーキングとは?従来のステーキングとの違い
まず、従来のステーキングの仕組みを確認しましょう。イーサリアムのステーキングでは、バリデーター(検証者)になるために最低32ETHをデポジットする必要があります。このETHはネットワークにロックされ、バリデーターとしての役割を果たす間は引き出すことができません。
この仕組みにはいくつかの課題があります。第一に、32ETHという高い参入障壁です。現在の価格では数百万円に相当し、個人にとっては大きな金額です。第二に、流動性の喪失です。ステーキングしたETHはロックされるため、急な資金需要に対応できません。第三に、機会費用です。ステーキング中のETHはDeFiで運用できないため、追加の収益機会を逃すことになります。
リキッドステーキングは、これらの課題をすべて解決します。リキッドステーキングプロトコルにETHを預けると、預けたETHを代表する「リキッドステーキングトークン(LST)」が発行されます。このLSTは自由に取引・転送・DeFiでの運用が可能です。
つまり、リキッドステーキングではステーキング報酬を受け取りながら、同時に資産の流動性も維持できるのです。少額からの参加も可能で、32ETHを持っていなくても気軽にステーキングに参加できます。
Lidoとは?最大のリキッドステーキングプロトコル
Lidoは、リキッドステーキング分野で最大のシェアを持つプロトコルです。2020年12月のローンチ以来、イーサリアムのステーキングエコシステムにおいて中心的な役割を果たしてきました。
Lidoの仕組みはシンプルです。ユーザーがETHをLidoのスマートコントラクトに預けると、同量のstETH(Staked ETH)が発行されます。このstETHは、預けたETHと1:1の価値を持つトークンで、ステーキング報酬を自動的に反映します。
stETHの特徴的な点は、「リベーストークン」であることです。毎日のステーキング報酬に応じて、ウォレット内のstETH残高が自動的に増加します。例えば100stETHを持っている場合、翌日には100.01stETH(年利約3〜4%に基づく日次報酬分)に増えているといった具合です。
Lidoが預かったETHは、Lidoが選定したプロフェッショナルなノードオペレーターによってステーキングされます。現在、30以上のノードオペレーターがバリデーターを運営しており、単一障害点のリスクを分散しています。
Lidoの手数料は、ステーキング報酬の10%です。この10%はノードオペレーターとLido DAOの運営費用に充てられます。ユーザーは残りの90%をstETHの残高増加として受け取ります。
stETHはDeFiエコシステムで広く受け入れられており、Aaveでの担保利用、Curveでの流動性提供、Uniswapでの取引など、さまざまなプロトコルで活用できます。これにより、ステーキング報酬に加えてDeFi運用による追加収益を得ることも可能です。
一方で、Lidoには中央集権化への懸念もあります。イーサリアムのステーキング全体に占めるLidoのシェアは約28〜30%に達しており、一つのプロトコルに過度にステーキングが集中することで、ネットワークの分散性が損なわれるリスクが指摘されています。
Rocket Poolとは?分散化を重視したリキッドステーキング
Rocket Poolは、Lidoとは異なるアプローチでリキッドステーキングを提供するプロトコルです。2021年11月のローンチ以来、分散化を最も重視したリキッドステーキングプロトコルとして高い評価を得ています。
Rocket Poolの最大の特徴は、誰でもノードオペレーターになれる「パーミッションレス」な設計です。Lidoがノードオペレーターを審査・選定する中央集権的なモデルであるのに対し、Rocket Poolでは一定の条件(ETHとRPLトークンの担保)を満たせば、誰でもノードオペレーターとして参加できます。
Rocket PoolにETHを預けると、rETH(Rocket Pool ETH)というLSTが発行されます。rETHはstETHとは異なり、リベース方式ではなく「交換レート方式」を採用しています。rETHの残高は変わりませんが、ETHとの交換レートが時間とともに上昇していきます。例えば、最初は1rETH = 1ETHだったものが、半年後には1rETH = 1.02ETHになるといった形です。
この方式のメリットは、税務上の取り扱いがシンプルになることです。リベース方式では日々残高が変わるため課税イベントが頻繁に発生する可能性がありますが、交換レート方式では売却時にのみ課税される形になります。
Rocket Poolのノードオペレーターは、最低8ETH(以前は16ETH)の自己資金と、一定量のRPLトークンを担保として預ける必要があります。残りのETHはプロトコルに預けられた一般ユーザーのETHが充当されます。この仕組みにより、ノードオペレーターは自分の資産もリスクにさらすため、不正行為への抑止力が働きます。
リキッドステーキングの活用法とリスク
リキッドステーキングトークン(LST)の最大の魅力は、ステーキング報酬を得ながらDeFiで追加収益を狙える点です。代表的な活用法を紹介します。
レンディング担保:AaveやCompoundなどのレンディングプロトコルにstETHやrETHを担保として預け、他の資産を借り入れることができます。借りた資産をさらに運用すれば、レバレッジ効果で収益を拡大できます。
流動性提供:CurveやBalancerなどのDEXで、stETH/ETHなどの流動性プールに資産を提供し、取引手数料収入を得られます。ステーキング報酬+取引手数料の二重収益が実現します。
リステーキング:EigenLayerなどのリステーキングプロトコルにLSTを預けることで、さらに追加の報酬を得ることも可能です。ステーキング→リキッドステーキング→リステーキングと、資本効率を最大限に高めることができます。
ただし、リキッドステーキングには以下のリスクも存在します。
スマートコントラクトリスク:LidoやRocket Poolのスマートコントラクトにバグや脆弱性がある場合、預けた資産が失われる可能性があります。大規模なプロトコルは複数の監査を受けていますが、リスクがゼロになることはありません。
ペグ乖離リスク:市場の急変時に、stETHやrETHがETHとの1:1のペグから乖離する可能性があります。2022年にはstETHが一時的に大きくディスカウントされた事例がありました。
バリデーターリスク:ノードオペレーターがスラッシング(ペナルティ)を受けた場合、預けた資産の一部が削減される可能性があります。
規制リスク:リキッドステーキングトークンが証券として分類されるリスクがあり、各国の規制動向によってはサービスの利用が制限される可能性があります。
リキッドステーキングは、ステーキングの流動性問題を解決し、資本効率を大幅に向上させる画期的な仕組みです。LidoのstETHは最大のシェアと高い流動性を誇り、Rocket PoolのrETHは分散化と税務面で優れた選択肢を提供しています。自分の投資方針やリスク許容度に応じて、適切なプロトコルを選択することが重要です。リキッドステーキングはDeFiの基盤的なインフラとしてさらに成長していくことが予想されますので、今後の動向にも注目していきましょう。