ツーク(Zug)は、スイス中部に位置する州および州都の名称であり、現在では「クリプトバレー(Crypto Valley)」の中心地として世界的に知られています。人口約3万人のコンパクトな都市ながら、ビットコイン・イーサリアムをはじめとするブロックチェーン技術の黎明期から多くの重要なプロジェクトや企業が集積しており、グローバルな暗号資産業界において特別な地位を占めています。
ツークが注目される背景には、スイス特有のビジネスフレンドリーな環境があります。低い法人税率・明確な規制枠組み・高い政治的安定性・優秀な技術人材の豊富さなどが組み合わさり、多くのブロックチェーン企業がスイス・ツークを拠点として選択しています。
クリプトバレーの誕生と歴史
初期の形成(2013〜2014年)
クリプトバレーの歴史は2013年に始まります。暗号資産取引サービスを提供するBitcoin SuisseとMonetasという企業がツークに法人を設立したことが出発点とされています。翌2014年には、イーサリアム(Ethereum)の創設者ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)が同地にEthereum Foundation(イーサリアム財団)を設立しました。
イーサリアム財団のツーク設立は、クリプトバレーの知名度を一気に世界規模に引き上げる転換点となりました。世界最大のスマートコントラクトプラットフォームの本拠地が置かれたことで、関連プロジェクト・投資家・開発者が次々とツークに集まり始めました。
急成長期(2017〜2018年)
ICO(Initial Coin Offering)ブームが起きた2017〜2018年にかけて、クリプトバレーは急激な成長を遂げました。トークン発行による資金調達を行うプロジェクトの多くがスイス・ツークを法人設立地として選択したため、短期間で数百社のブロックチェーン企業が集積しました。
この時期、クリプトバレー協会(Crypto Valley Association)の設立(2017年)も、エコシステムの組織的な発展に大きく寄与しました。
成熟期(2019年以降)
ICOブームが落ち着いた後も、ツークのブロックチェーンエコシステムは着実に拡大を続けています。Cardano(ADA)を開発するIOG、Polkadot(DOT)のWeb3財団、Solana(SOL)関連プロジェクトなど、主要ブロックチェーンプロジェクトの財団や開発組織がツークに設立されています。
ツークが選ばれる理由
低い法人税率
ツーク州の実効法人税率は連邦・州・市町村合計で約12〜14%程度であり、スイス国内でも特に低い水準にあります。欧州の主要国と比較してもはるかに低い税負担は、企業にとって大きな財務的メリットをもたらします。
明確な規制環境
スイス金融市場監督局(FINMA)は、ICOやトークンの法的分類(ペイメントトークン・ユーティリティトークン・セキュリティトークン)についての指針を2018年に公表し、規制の透明性を確保しました。また2021年には「DLT法」(分散型台帳技術に関する連邦法)が施行され、ブロックチェーン上の証券取引に関する包括的な法的基盤が整備されました。
暗号資産による決済の受け入れ
ツーク市は2016年、世界で初めて市民サービスの決済にビットコインを受け入れた自治体として注目されました。また、ツークの一部の不動産では暗号資産による決済が可能であり、行政・民間両面でのデジタル資産受容が進んでいます。
主要企業・財団の集積
ツークには現在、1,000社を超えるブロックチェーン関連企業が集積しているとされています(調査時点により異なる)。代表的な企業・財団には以下があります。
- Ethereum Foundation(イーサリアム財団)
- Web3 Foundation(Polkadot関連)
- IOG / IOHK(Cardano開発)
- Bitcoin Suisse(暗号資産金融サービス)
- Sygnum Bank(デジタル資産特化銀行)
- SEBA Bank(デジタル資産特化銀行)
まとめ
ツーク(Zug)は、スイスの小さな都市でありながら、ブロックチェーン・暗号資産産業における世界的な中心地として確固たる地位を築いています。低税率・明確な規制・政治的安定・技術人材の集積といった強みを背景に、イーサリアム財団をはじめとする主要プロジェクトが集まるクリプトバレーの核心として機能しています。
暗号資産業界の動向を理解する上で、ツークのエコシステムを把握することは非常に重要です。スイスがブロックチェーン分野で世界をリードし続ける背景には、ツークという街の先進的な取り組みがあります。