MEVとは、ブロックチェーンにおいてブロック生成者(マイナーやバリデーターなど)が、取引の順序操作・追加・除外を通じて得られる追加的な利益のことを指します。単なるブロック報酬やガス代を超えた「隠れた収益源」とも呼ばれ、特にDeFiスマートコントラクトが多く扱われるブロックチェーンで問題・機会の両面を持つ重要概念です。
2019年頃の論文「Flash Boys 2.0」で広く言及されるようになり、PoW時代は “Miner Extractable Value(MEV)” と呼ばれていました。PoS時代以降は “Maximal Extractable Value” と改称され、マイナーだけでなくバリデーターや他のブロック構築主体も含む広義の概念として扱われています。
1. MEVが発生する仕組み
MEVが生まれる背景には次のような構造があります:
- メモプール(mempool)
送信されたトランザクションはまず mempool に入る。ブロック生成者はこの待機中トランザクション群から、どれを採用・除外・順序をどうするかを選べる。 - 取引の順序操作
ブロック生成者や関連する “サーチャー(searcher)” が有利になるようにトランザクションを並び替える。 - 挿入・除外操作
自らの取引を差し込んだり、特定のトランザクションを除外することで、利益を得る戦略が可能。 - アービトラージ/清算機会の利用
DEX間の価格差(アービトラージ)、借入プロトコルの清算(liquidation)などが MEV 機会となりうる。
2. 主な MEV 戦略・タイプ
MEV で実際に使われる典型的な戦略には、以下のものがあります:
- フロントランニング(Front-running)
他のトランザクションの前に自分の取引を実行して利益を得る。 - バックランニング(Back-running)
ターゲット取引の直後に自分の取引を実行し、その波を利用して利益を確保する。 - サンドイッチ攻撃(Sandwich attack)
ユーザーの取引を挟む形で自分の買い・売りを挿入して価格変動を利用する。 - 清算操作(Liquidation capture)
借入プロトコルのポジション清算を予測・操作してその清算手数料や価格差を得る。
3. 利点と問題点
利点(ポジティブな面・技術的意義)
- 市場効率性への寄与
MEV が有効に働くと、価格差が早く是正され、アービトラージ機会が消えることで市場の整合性が高まることもあります。 - 追加的インセンティブ
ブロック生成者・サーチャーにとって、ガス代やブロック報酬以外の収益源となりうる。
問題点・リスク(ネガティブな影響)
- 公平性の損失
一部の取引参加者に不利な順序変更や操作が行われる可能性がある。 - 手数料高騰
MEV が競争を煽り、ガス代の上昇を招く可能性。 - 中央集権化傾向
ブロック構築を担う「ビルダー」「バリデーター」の集中につながるリスク。 - 透明性・セキュリティ課題
ユーザー取引が mempool に出る過程で露出し、狙われやすくなる可能性。
4. MEV に対する対策・軽減手法
- プロポーザ・ビルダー分離(Proposer-Builder Separation, PBS)
ブロックの構築(ビルダー)と提案(プロポーザ)を分離する設計。攻撃可能性を抑える手段。 - 暗号化メモプール / プライバシーメモプール
トランザクションを mempool に公開せずに扱う方式。順序操作を困難に。 - 優先度オークション(Order Flow Auctions)
取引順序を競売形式で決定する方式。 - アプリケーション側の工夫
DEX やプロトコル内で順序依存性を減らす仕様設計。
研究が進む中、Ethereum や L2 チェーンでの MEV 軽減策も多数議論されており、包括的な調査・分類を行った論文も出ています。
関連キーワード
- Mempool(メモプール)
- サーチャー(Searchers)
- ビルダー(Builders)
- プロポーザ(Proposers)
- フロントランニング / サンドイッチ攻撃 / バックランニング
- Proposer-Builder Separation(PBS)
- 暗号化メモプール
- 順序オークション(Order Flow Auctions)
- 公平性・分散性