「Strategic Bitcoin Reserve(戦略的ビットコイン備蓄)」は、トランプ大統領が2025年3月6日に署名した大統領令により創設された、米国政府によるビットコイン戦略備蓄制度です。米国は推定32万BTC以上を保有する世界最大級の国家保有者となり、暗号資産が国家戦略資産として位置づけられた歴史的な転換点となりました。本記事では同制度の中身・併設された「米国デジタル資産備蓄」・市場への影響・残された論点を整理します。
Strategic Bitcoin Reserveとは
Strategic Bitcoin Reserve(SBR)は、米国財務省が保有するビットコインを「長期的価値貯蔵資産」として恒久的に保有する制度です。2025年3月6日に大統領令14233として署名され、同月11日に連邦官報に掲載されました。
当初の原資は、犯罪・民事の没収手続で連邦政府が押収したビットコインで、約20万BTCからのスタートと報じられました。2026年2月時点の推定では、米連邦政府が保有するビットコインは約32万8,372 BTCにのぼり、世界最大の国家保有者となっています。
主な条文・規定
- 売却禁止:SBRに繰り入れられたビットコインは米国政府によって売却されない。
- 追加取得は予算中立:財務長官・商務長官に「納税者負担を伴わない方法で追加BTCを取得する計画」を立案するよう指示。
- 各省庁の在庫公開:大統領令発令から30日以内に、全省庁が保有するビットコイン・その他デジタル資産の完全な会計を提出。
- 米国デジタル資産備蓄の併設:ビットコイン以外の押収済み暗号資産(ETH・XRP・SOL・ADA等)を別途「Digital Asset Stockpile」として管理。こちらは積極的な追加取得はしない方針。
なぜ「金」「石油備蓄」ではなく「ビットコイン」か
大統領令の中ではビットコインを「デジタルゴールド」「希少性とセキュリティに裏付けられた価値貯蔵資産」と位置づけ、有限の供給量2,100万枚という点を強調しています。米国がドル準備通貨の優位性を維持するうえで、新興のデジタル資産経済を国家戦略の一部に組み込む狙いがあると説明されています。
政策的にはこれまで「押収BTCは速やかに換金して国庫に戻す」運用が一般的でしたが、SBR発令により方針が180度転換。「換金せず保有し続けることが、長期的に国益に資する」という新しい立場が明文化されました。
市場・業界への影響
- 制度的正統性の確立:米国政府がビットコインを「戦略資産」と認定した影響は心理的に巨大。他国政府の追随、機関投資家の参入、ETF市場の安定化に寄与した。
- 売却懸念の解消:「米国が押収BTCを大量売却するのではないか」という長年の供給リスクが消滅。
- 追加取得の議論:「予算中立で取得」の手法をめぐり、税収・金売却・地金スワップ・関税収入の充当など複数案が議論されている。
- 立法化の動き:大統領令は次期政権で撤回可能なため、共和党のBron Donalds議員らが「BITCOIN Act」として法律レベルの恒久化を提案中。
他国の動き
- エルサルバドル:2021年に法定通貨化した先行国。SBRに合わせて追加取得を加速。
- ブータン:国営マイニングで秘密裏に保有していた事実が発覚。世界第3位の国家保有国として注目を集める。
- 欧州・日本:直接の備蓄構想は表面化していないが、米国の動きを受けて議論は本格化。
- 新興国:ボリビア・ロシア・ベネズエラなどがドル経済からの脱却の文脈でビットコイン関連政策を進める動きあり。
残された論点
- 大統領令の脆さ:次期大統領が同等の命令で撤回可能。立法化が完了するまでは制度的に不安定。
- 「予算中立」の実態:実質的に新規取得が進んでいるかどうかは透明性に欠ける。各議会報告で進捗を追う必要がある。
- セキュリティリスク:32万BTCの保管・運用は国家規模のサイバーセキュリティ課題。財務省は具体的なカストディ方式を公表していない。
- 市場ボラティリティへの影響:政府が「絶対売らない」と表明したことで、流動性供給の構造が変わる可能性。
まとめ
Strategic Bitcoin Reserveは、米国がビットコインを「戦略的価値貯蔵資産」と認定した歴史的な政策転換です。即座の市場インパクトは限定的でしたが、「主権国家がBTCを売らずに保有し続ける」という前例を作った意義は極めて大きく、長期的にはビットコインの制度的位置づけそのものを変える可能性があります。今後は立法化の進展、追加取得の透明性、他国の追随状況がフォローすべき主要論点になります。