Odysee.comを巡る問題まとめ|SEC敗訴・コンテンツモデレーション・Arweave救済買収まで

Odysee(オデッシー)は、「分散型YouTube」を掲げて2020年にローンチされた動画共有プラットフォームです。月間アクティブユーザー数は700万人を超え、Web3系メディアでは異例の規模に育ちました。一方で、母体だったLBRYのSEC敗訴、コンテンツモデレーションの欠如を巡る人権団体からの批判、EUデジタルサービス法(DSA)下での地理ブロック対応、そして2024年のArweaveエコシステムへの「救済買収」など、複数の問題が絡み合った経緯を持つプロジェクトでもあります。本記事ではOdyseeを巡る論点を整理します。

Odyseeとは

Odyseeは、ブロックチェーンプロトコル「LBRY」をバックエンドに使う動画共有サービスとして2020年9月にローンチされました。YouTubeから追放されたクリエイターの受け皿として急成長し、検閲耐性と暗号資産(LBC)による投げ銭機能を売りにしてきました。2024年時点で月間アクティブユーザーは約700万人とされ、Web3動画プラットフォームとしては最大級です。

問題1:SEC訴訟とLBRYの清算

Odyseeの土台であるLBRYプロトコルを運営していたLBRY, Inc.は、2021年3月に米証券取引委員会(SEC)から提訴されました。争点は、ネイティブトークンLBCの販売が未登録の証券提供にあたるかどうかでした。

  • 2022年11月:ニューハンプシャー連邦地裁が、LBC販売は未登録証券にあたるとしてSEC勝訴判決。Howeyテストに基づき、LBRY側の「LBCは値上がりする」という公の発言が投資契約性を裏付けたと判断。
  • 2023年7月:永久差止命令が確定。LBRY, Inc.は事業継続を断念。
  • 2023年10月:罰金は当初想定の2,200万ドルから約11.1万ドルへ大幅減額(SEC側もLBRYの事業破綻を認定)。
  • 2023年末:LBRY, Inc.は控訴を取り下げ正式に解散。

裁判所はSECの主張のうち「OdyseeにもLBRYに対する差止命令を及ぼすべき」という部分は退け、OdyseeはLBRYとは別主体としての存続が可能となりました。ただしLBCトークン自体が証券か否かについて裁判所は判断を保留したため、流通市場で扱う暗号資産取引所には法的不確実性が残されました。

問題2:コンテンツモデレーションの欠如

Odyseeは「検閲耐性」を売りにしてきた反面、人権団体や調査ジャーナリズム機関から「過激主義の温床」として繰り返し批判されてきました。米国のSouthern Poverty Law Center(SPLC)は同サイトをExtremist Filesの監視対象にリスト化しています。

  • ネオナチ・極右コンテンツ:SPLCの調査では、極右系チャンネル113件が4,557人のユーザーから40,316件の「Hyperchat」投げ銭を集め、約33.6万ドルを獲得していたと報告。
  • 違法・暴力的コンテンツ:ホロコースト否認動画、2022年のバッファロー銃乱射事件のライブ配信クリップ、3Dプリント銃のSTLファイル配布などが指摘されている。
  • テロ関連:イスラム国(IS)関連の宣伝動画が一部残存していると欧州の調査機関が報告。

OdyseeはCommunity Guidelinesを持ち、明確な違法コンテンツは削除すると表明していますが、運用面では「メインストリームのSNS/動画プラットフォーム水準に達していない」という第三者評価が支配的です。

問題3:EU・各国からの地理ブロック要請

2024年2月にEUデジタルサービス法(DSA)の主要規定が全面適用となり、プラットフォーム事業者は違法コンテンツの迅速な削除または地理ブロックを義務付けられました。Odyseeは地理ブロックの仕組みを実装していますが、その運用については以下のような課題が報告されています。

  • EU調査機関EU DisinfoLabによれば、Odysee宛の地理ブロック要請の大多数は「明らかにEU各国で違法」と判断される内容(ナチズム称賛、反ユダヤ主義、テロ宣伝など)。
  • EU加盟国の中で実効的な要請を多く出しているのはドイツのみで、他の加盟国は履行が不十分。
  • EU諸機関からの公式要請は同期間で2件のみで、むしろGoogleの欧州法人からの要請件数の方が多い。

つまり「プラットフォーム側のモデレーション不足」だけでなく、「監督当局側のエンフォースメント不足」も問題として同時に存在しているという構図です。CheckFirst等の独立監視組織は、Odyseeのブロックリストを公開し市民監視の対象としています。

問題4:Arweaveエコシステムへの「救済買収」

2024年6月、Odyseeは姉妹サービスSolarplexとともに、Arweave創設者Sam Williamsが率いる開発組織「Forward Research」によって買収されました。Sam Williamsは買収理由を「Odyseeが完全にオフラインになるのを防ぐためにステップインした」と語っており、事実上の救済買収と位置づけられます。

この買収によりOdyseeはArweaveエコシステムに合流し、2024年2月に稼働を始めた並列処理コンピュータ「AO」とも連携する方針が示されています。2025年5月にはIndependent Media Alliance(独立系メディア連合)を旗艦パートナーに迎え、新たな分散型出版プラットフォーム「Portal」を発表するなど、再起の動きが続いています。

もっとも、報道機関The Blockは買収報道の見出しに「コンテンツに関する懸念がある中での買収(despite content concerns)」と添えており、Arweaveエコシステム側にとってもブランドリスクをどう扱うかが論点として残されています。

問題5:LBCトークンの宙吊り状態

LBRY, Inc.は解散しましたが、LBRYブロックチェーン自体は分散型ネットワークとして稼働を続けており、LBCトークンも流通しています。ただし以下のような実務的問題が残ります。

  • 米国の主要取引所はSEC判決後にLBCの取扱を停止/制限。流動性が大幅に低下。
  • 判決がLBCの「証券性」自体を否定したわけではないため、二次流通の法的位置づけはあいまいなまま。
  • 開発リソースを失ったLBRYプロトコルのアップデートはコミュニティ主導に依存。
  • OdyseeはLBC依存度を下げ、Arweaveベースの新ストレージ・決済基盤への移行を進めている。

Odyseeを巡る論点まとめ

Odyseeの問題は、単なる一企業のスキャンダルではなく、Web3における3つの普遍的な論点を凝縮した事例と言えます。

  1. トークン販売と証券規制:プロトコル側に強い意志を持つ運営会社がある場合、その公の発言がトークンの証券性を立証する材料になり得る、というSEC側の戦略の典型例。
  2. 分散型と検閲耐性のジレンマ:「検閲耐性」を商品価値にすると、違法コンテンツ温床化のリスクが必然的に高まる。プロトコルとフロントエンドの責任分界をどう設計するかが問われる。
  3. 規制エンフォースメントの実効性:DSAのような新規制ができても、各国当局の運用が伴わなければ「法はあるが守られない」状態が長期化する。

Forward Research傘下となった現在のOdyseeは、Arweaveの永続ストレージとAOの計算層を活用して「検閲耐性 × 健全なモデレーション」という難しい折衷を目指す段階にあります。Web3メディアの今後を占ううえで、Odyseeの再起プロセスは引き続き注視に値するケースです。

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