「IPFSは外部ストレージに依存していない」「ファイルを分割してブロックチェーンに記録している」
──暗号資産・Web3界隈では、このような説明を耳にすることがある。
しかし結論から言えば、これは正確ではない。
IPFSはブロックチェーンでもなければ、ファイルをブロックチェーン上に直接保存する仕組みでもない。
この誤解は非常に多く、NFTやWeb3を理解するうえで重要なポイントでもあるため、ここで整理しておきたい。
1. IPFSは「外部ストレージに依存していない」のか?
まず、「IPFSは外部ストレージに依存していない」という表現について。
これは 半分正しく、半分誤解を招く言い方 である。
IPFSは確かに、
- Amazon S3
- Google Cloud
- 特定企業のサーバー
といった中央集権的なストレージサービスには依存しない。
しかし一方で、
「物理的な保存場所」そのものが不要になるわけではない。
IPFSの実体は、
- 世界中のノード(PCやサーバー)が
- データを分割して
- 各自のストレージに保存する
という 分散型ストレージネットワーク である。
つまりIPFSは
「外部ストレージを不要にする技術」ではなく、
「外部ストレージを分散化する技術」
と理解するのが正しい。
2. ファイルを分割して「ブロックチェーン」に記録している?
これも非常に多い誤解だが、
IPFSはブロックチェーン上にファイルを保存しない。
IPFSが行っているのは次の処理である。
- ファイルを小さなブロックに分割
- 各ブロックにハッシュ値を付与
- そのハッシュを使ってデータを管理・探索
ここで重要なのは、
ハッシュ化=ブロックチェーンに記録、ではない
という点だ。
IPFSで使われるハッシュは、
- データ識別のため
- 改ざん検知のため
- 同一データを一意に扱うため
のものであり、
トランザクションとしてチェーンに書き込まれるわけではない。
3. ブロックチェーンとIPFSの役割分担
では、なぜ「IPFS=ブロックチェーンに保存」と誤解されやすいのか。
それは、NFTやWeb3で 両者が組み合わせて使われる からである。
役割を整理すると以下の通り。
- ブロックチェーン
- 所有権
- トランザクション履歴
- 誰が何を持っているか
- IPFS
- 画像
- 動画
- JSONメタデータ
- Webページの実体
NFTの場合、
- NFTのトークンIDや所有者情報はブロックチェーン
- 画像や説明文はIPFS
という構造になっていることが多い。
つまり
IPFSはブロックチェーンの“外側”でデータを支える存在
であり、
ブロックチェーンの代替ではない。
4. 「IPFSに置けば永久に残る」は本当か?
これもよくある誤解のひとつだ。
IPFSにアップロードしたデータは、
誰かが保持し続けない限り、消える可能性がある。
IPFSは「配布の仕組み」であって、
「永久保存を保証する仕組み」ではない。
そのため実務では、
- 自分でノードを立ててピン留めする
- 永続保存サービスを使う
- 別の分散ストレージと併用する
といった工夫が必要になる。
5. なぜ誤解が広まったのか
この誤解が広まった背景には、
- 「分散」「ブロック」「ハッシュ」といった言葉の共通性
- NFTブームで技術説明が簡略化された
- マーケティング的に分かりやすい表現が優先された
といった事情がある。
しかし、
IPFSをブロックチェーンの一部だと誤解したままでは、
Web3の設計思想を正しく理解できない。
6. まとめ
IPFSについて、整理すると次のようになる。
- IPFSは中央集権的ストレージに依存しないが、物理的保存は必要
- ファイルは分割されるが、ブロックチェーンに記録されるわけではない
- IPFSはブロックチェーンを補完する分散ストレージ技術
- 永久保存を保証する仕組みではない
IPFSは
「ブロックチェーンの中にデータを入れる技術」ではなく、
「ブロックチェーンが苦手な部分を外から支える技術」
である。
この違いを理解しているかどうかで、
NFT・Web3・分散インターネットの理解度は大きく変わる。

