Stateless blockchain(ステートレス・ブロックチェーン)とは、ノードがブロックチェーンの全体の状態(例えばアカウント残高やスマートコントラクトのデータ)を保持せずに、トランザクションやブロックの検証を行うことができるブロックチェーンの設計です。これにより、ネットワークのスケーラビリティと効率性を向上させることが期待されています。
従来のブロックチェーンでは、ノードが膨大なデータを保持し続ける必要があるため、参加のハードルが高くなりがちです。ステートレス・ブロックチェーンはこの問題を根本的に解決するアプローチとして研究が進められています。
従来のブロックチェーン(ステートフル)との違い
従来のブロックチェーン(ステートフル・ブロックチェーン)では、各ノードが全てのブロックとその結果生じる状態を保存します。ここでいう「状態」とは、全アカウントの残高、スマートコントラクトのストレージデータ、各種パラメータなど、ブロックチェーンの「今の姿」を表すデータの総体です。
Ethereumを例に取ると、2025年時点でフルノードの状態データは数百GBに達しています。時間の経過とともにこのデータは増加し続けるため、ノードのストレージ要件が膨大になります。その結果、新規参加者がフルノードとしてネットワークに参加するためのハードルが高くなり、ネットワークの分散性やセキュリティに影響を及ぼす可能性があります。
ステートレス・ブロックチェーンでは、この課題をノードが状態を保存しないという設計で解決しようとします。
ステートレス・ブロックチェーンの仕組み
Stateless blockchainでは、ノードはブロックチェーンの状態を保存する必要がありません。代わりに、トランザクションの検証に必要な最小限のデータを「ウィットネス(witness)」と呼ばれる証拠データとして利用します。
具体的には、各トランザクションにはそのトランザクションが正当であることを証明するための状態情報が添付されます。たとえば、「AからBへ10 ETHを送金する」というトランザクションの場合、Aの現在の残高が10 ETH以上であることを示すウィットネスデータが添付されます。ノードはこのウィットネスを検証するだけでよく、全体の状態ツリーを手元に持つ必要がなくなります。
このウィットネスの正当性は、暗号学的なデータ構造(マークルツリーやVerkle Treeなど)を使って効率的に検証できます。特にVerkle Treeは、ウィットネスのデータサイズを大幅に削減できる技術として注目されています。
メリット
スケーラビリティの向上:ノードが全ての状態を保持しなくて済むため、ストレージ要件が大幅に削減されます。これにより、一般的なハードウェアでもフルノードを運用できるようになり、ネットワーク参加者の増加とスループットの向上が見込めます。
分散性の強化:軽量なノードでもフルノードとして機能できるため、より多くの参加者がネットワークに加わりやすくなります。ノード数の増加はネットワーク全体の分散性とセキュリティの向上に直結します。
同期の高速化:新しいノードがネットワークに参加する際に、膨大な状態データを同期する必要がなくなります。最新のブロックヘッダーだけを取得すれば検証を開始できるため、参加までの時間が大幅に短縮されます。
課題と技術的なハードル
ウィットネスサイズの増加:トランザクションごとに状態情報を含める必要があるため、個々のトランザクションやブロックのデータサイズが増加します。これがネットワーク帯域幅への負荷となる可能性があります。Verkle Treeの導入はこの問題を緩和する重要なアプローチです。
計算コスト:ウィットネスの生成と検証には追加の計算リソースが必要となる場合があります。特にブロック提案者はウィットネスを生成するために状態データを保持する必要があるため、完全にステートレスとはいかず、「弱いステートレス性(weak statelessness)」と呼ばれる中間的なアプローチが検討されています。
プロトコル設計の複雑性:既存のブロックチェーンにステートレスな仕組みを導入するには、プロトコルレベルでの大幅な変更が必要です。後方互換性を維持しつつ移行するための慎重な設計が求められます。
現在の取り組み
Ethereumでは「The Verge」と呼ばれるロードマップの一環として、Verkle Treeの導入によるステートレスクライアントの実現に向けた研究が進められています。Verkle Treeはマークルツリーに比べてウィットネスサイズを大幅に圧縮でき、ステートレス検証を実用的にする鍵となる技術です。
また、Mina Protocolは異なるアプローチとして、ゼロ知識証明(zk-SNARKs)を活用し、ブロックチェーン全体の状態を約22KBに圧縮する技術を実装しています。これにより、スマートフォンのような軽量デバイスでもフルノードとして検証に参加できることを目指しています。
まとめ
Stateless blockchainは、ブロックチェーンのスケーラビリティと分散性の課題を解決するための有望なアプローチです。状態を保持しないことでノードの負荷を軽減し、ネットワーク全体の効率性を高めることが期待されています。Verkle Treeやゼロ知識証明といった最先端の暗号技術と組み合わせることで、実現に向けた道筋が見えてきています。今後の技術的進展に注目が集まる分野です。