金子 勇(かねこ いさむ)は、日本の情報工学研究者であり、匿名通信技術の研究およびファイル共有ソフト 「Winny」 の開発者として世界的に知られる人物である。
インターネットの自由や情報共有文化に大きな影響を与えた一方、著作権問題による刑事訴追を受けたことで、技術者の権利と表現の自由、法律との関係性が日本社会で大きな議論を呼んだ。
1. 経歴
- 1970年生まれ、北海道出身
- 東京大学大学院工学系研究科修了、京都大学大学院情報学研究科助手などを経て研究活動に従事
- 分散ネットワーク・P2P技術、匿名通信技術の研究者として活動
- 2002年、ファイル共有ソフト Winny の公開によって注目を集める
2. Winny 開発とその衝撃
Winny は、匿名性の高い P2P(ピアツーピア)技術を用いてファイル共有を行えるソフトウェアとして公開された。
■ 技術面での革新性
- 当時普及していた Napster などとは異なり、中央サーバー不要の純粋な分散型ネットワーク
- 暗号化通信・匿名性・自律分散キャッシュ機構を採用
- 高速性と耐検閲性に優れる、先端的アーキテクチャだった
■ 社会へのインパクト
- 国内利用が爆発的に増加し、日本のインターネット文化に大きな影響を与えた
- 一方で、著作権違反目的で利用されるケースが増加し、社会・メディアで大きな議論に
3. 刑事訴追と裁判
2004年、金子は 著作権法違反ほう助の疑いで逮捕・起訴される。
開発者がユーザーの違法行為で罪に問われるという前例のなさから、技術者や研究者の間で強い反発が起きた。
- 2006年、一審で有罪判決
- 2009年、大阪高裁で逆転無罪
- 2011年、最高裁で無罪確定(技術開発者の責任範囲をめぐる重要判例となる)
この裁判は、日本の IT・研究コミュニティにおいて象徴的な事件となり、
「技術者の逮捕はイノベーションを阻害する」 と大きな議論が生まれた。
4. その後と死去
無罪確定後も研究を続けていたが、2013年7月、急性心筋梗塞により43歳で死去。
早すぎる死は日本の技術者コミュニティに大きな衝撃を与え、追悼の声が広がった。
5. 遺したもの・評価
- P2Pや分散型ネットワークの発展に多大な貢献をした研究者として高く評価
- 技術者の表現・開発の自由を守る象徴的存在に
- 後の Bittorrent、Blockchain、Web3 の思想につながる “中央集権からの解放” の潮流を先取りしていた存在と捉えられることも多い
6. 関連キーワード
- Winny
- P2P(Peer to Peer)
- 分散型ネットワーク
- 技術者逮捕事件
- 著作権法違反ほう助
- 無罪判決
- イノベーションと規制の問題


